はじめに
 わが国の医療経営環境は平成元年にバブル経済崩して今日まで長期低迷を続けてきたがここに来て小泉内閣の掲げる郵政民営化を突破口とする聖域なき改革が国民の信を得て、政権獲得に圧勝し、いよいよ医療介護の大改革を手始めとして社会保障全体への改革につなげようとしている状況にある。これまでにも一般病院においては在院日数短縮やDPCなど定額マルメ化に追い込まれ、更には今後、療養病床から介護施設化へと誘導されようとしている。転じて精神病院をみるに今日までさして大きな変革がされなかったが、一般・療養病床の改革に目途がついた今、大変革の大波が迫ろうとしている。 ここにおいて私が日本医療企画の依頼を受け、わが国でユニークな優れた経営を行っている精神病院のピックアップを行い連載されたものを皆様にお届けし、いささかでもお役に立てれば幸いに思う次第である。

(株)メドックス  代表取締役会長  野口哲英

これからの精神医療を探る 【精神病院経営探訪】その①

医療法人静和会 浅井病院(千葉県東金市)
 医療法人静和会は、精神科医の浅井利勇前理事長が戦後、千葉の東金の地に内科・精神科・放射線科を標榜する診療所を開設したことに始まる。当時は珍 しかったレントゲンをいち早く購入し、また、入手困難 なサントニンやペニシリンを使用するという”新しいこと をする医者で名医”という評判であった。1959年には 浅井病院(26床)を開設、その後、増築を重ね、現在 の精神371床、一般87床を有する病院となった。

■広大な敷地に良な医療環境

 同院はJR成東駅および大網駅から車で18分程のところに位置するが、敷地は2万坪もあり、一瞬「森に来たかと見間違うほど、樹々の生い茂る良好な医療福祉環境をつくり出している。門をくぐると中程にひと際目立つ大木”はんてん木”。癒しのシンボルとして苗木から育てられ、40年の歴史を感じさせられる。そこを過ぎると、間もなく診療棟へと達し、広大な敷地のほぼ中心にピラミッド屋根を挺した病棟が目に入る。同法人の経営理念は「精神障害(痴呆症も含む)で悩む人達が地域の中で安心して生活できる」ことを実現するために、患者や療養者に対し最もふさわしいサービスを提供することである。(上表)それを実現するための目標は「医療・介護・福祉の総合ネットワークのヘルスケアグループ」づくりにある。今日までそのために永々と愚直に実践してきた結果、精神科グループホーム3棟、授産寮1棟を設置することができ、ほぼ目標を達成したといえよう。グループといっても自己完結型の狭い考えではなく、地域の医療・福祉 機関と連携していく、いわゆる 「地域完結型」を目指している。そのためにM&Aや多角経営はせず、また サテライト診療所も展開しないという浅井邦彦言理事長の強い姿勢に表れている。今後はさらに「永住可 能な精神保健福祉施設の実現への試みと、2005年の法改正に向けての運動を展開し、精神医療、福祉の質の向上と発展に貢献してゆく」と語っている。

■急性期から在宅まで対応

 精神病床は急性期治療病棟60床、亜急性期病棟50床を有し、チームワークで在院日数の短縮を図り、入院から外来へと懸命な努力が続けられている。(表1)。そのための人員配置も手厚く、部門別収支は若干赤字であるが、他の分野で補われて全体で黒字を確保している。また、患者さんにとって最もふさわしい医療とは何かを常に追求し、新しいもの、より良いものを全員で考え実行することに表れている。その結果、交通の便は良くないのにもかかわらず、外来は1日平均350人と精神科主体の病院にしては立派である。30%が内科、70%が精神疾患で占められている。歯科は別途1日約50人来院する。 アメニティにおいては、医療と一体となって、安心して気持ちよく時が過ごせる自然環境と明るくゆとりのある施設づくりが展開されている。

■早くからナイトケアに着手

 同院は予防、人間ドックに力を入れ、一般、脳、総合の各ドックを展開し、最新鋭のMRIはもとより、更にMRA(アンギオグラフィ)まで備え、脳検診では力を発揮し、精神疾患(不眠、うつ、思春期等の専門外来)だけでなく、広く生活習慣病の予防までに貢献している。療養と介護、精神科デイケア100人、ナイトケア80人はわが国で2番目に着手され、地域から大変歓迎されている。また、老人保健施設も含めてリハビリにも力を入れ、全体でPT7人、OT6人、運動療法専門家2人 、言語療法士1人という、他に類のない贅沢な人材を擁している。特養ではアメニティに力を入れ、個室と2人室のみで構成されている。また、新しい痴呆性老人グループホーム2棟も重要である。

■地域との交流に尽力

 同院は昔から地元の小、中、高、大学の校医として身体と心のケアに心がけている。また、長年にわたり施設で春夏秋冬に繰り広げられるお祭り(春:はんてん木祭、夏:七夕会、海水浴、盆踊り、秋:運動会、文化祭, 冬:クリスマス会)においても地域の人たちが大勢参加、完全に地域に溶け込んでおり、得てして敬遠されがちな施設が地域になくてはならない施設となっている。そのためか、地元の子供から大人まで、施設へのボランティアや協力が盛んで、患者さんの社会復帰と自立に対しても、地元の中小企業と職親制度が展開され、その企業数は40ヶ所にものぼり、授産寮などから楽しく通っている状況だ。このように予防からケアまで常に技術、アメニティ、社会、生活への復帰サポートの最高レベルを求めるために汗を流すことはもちろんのこと、利益を追うのではなく、得た利益をできるだけ地域へつぎ込むことに努力を惜しまない結果が、今日みるグループの発展に結びついているといえよう。現在進めている本館の病棟建て替え工事(最も新しいコンセプトの内科急性期病棟、精神科急性期治療病棟2など)で、さらなる医療の質とアメニティの向上が実現するのが今から楽しみである。

                         (この記事は2003年1月号の「医療タイムス」に掲載されました。)

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