患者中心の有限会社経営で主体性と積極性を導き出す【精神病院経営探訪】その⑤

医療法人風心堂小原病院 (山形県寒河江市)
 サクランボの里として有名な山形県寒河江市。全国生産量の約80%を担い、さらに、「サクランボランド」と称してサクランボ畑を一般にも開放するなど、農業と観光がメインの活気溢れる地域だ。 医療法人風心堂小原病院は、その寒河江市にほど近い河北町にあり、出羽三山のひとつとして数えられている美しい月山のふもとに位置する。同院の理事長である小原正久氏は一九六七年に東北大学を卒業後、精神科に入局して山形に派遣されたのがきっかけとなり山形に定住 。八五年に河北町で116床の精神科病院を開業し、99年に医療法人化、現在に至っている。小原氏は精神科には無医地区ともいえる地に居を構え、地域とともに生きる決意で、いつかパンが食べられる日を楽しみに毎日麦撒き作業をしているとのこと。その暖かい心は同院の理念と位置づけられており、常にそれを実現するため、中長期的な経営計画にもとづいた事業活動が果敢に実行されている。

小原病院のロマンと願い

 心を病んでいる人たちを一人でも多く救いたい。その病の重りの他に、偏見という重りを少なくしたい。そのために以下のことを大切にしていきたい。

  • 心を病んでいる人を、ことさら大切にして生きること
  • われわれの原点は、われわれも病む人も、地域の人たちとともに生きること。
  • 地域のなかでの調和を大切にしていくこと。
  • 同じ志・ロマンを持つスタッフと一丸となって、ともに高め合い継続させ、そして発展させ、得られる成果をスタッフ及び地域の人たちとともに分かち合うこと

以上のキーワードを「共生・調和・発展・継続」とする
結果、法人化して以来、収益、利益とも年々向上し続けているという。

また、理念(ロマン)追求のためには”患者さんへのサービス向上”が不可欠との考えから、

  1. 日常的教育・研修を継続して行う(人材)
  2. 地域の人と心身ともに健康を願う(安心)
  3. アフターケアーに万全の体制を構築(連携)

などの目標を掲げている。

 同院が現在進めている経営計画では、その成長過程を三つのステージに分類しているが、現時点では第二ステージまで達成している状態だという。第一ステージは、116床を精神科一般60床、精神療養60床に分類・増床、第二ステージは、老人性痴呆疾患療養病床を60床新設。そして今後の目標となる第三ステージは、神経症の比較的軽い短期で社会復帰できる人たちの病棟、さらには退院しても帰る場所のない人たちのため、4~5人の小規模な、肩を寄せ合ってできる精神科のグループホームの設立だという。

■患者が運営する有限会社が個々人の自律を支援

 同院の特徴として、全病棟が男女混合病棟のスタイルをとっていることが挙げられる。昼間は男女混合で、夜間は廊下で仕切りを入れて男女を分けている。この体制を敷くにあたっては、「男女問題が起こるのではないか」と大勢の職員の反対があったが、実践してみると その不安はまったくの杞憂に終わり、患者にも大変好評であるという。病室は以前、六人床の多床室もあったが、精神療養病床の導入を機にすべて四人床以下に改善。また同時に、患者が常に職員から監視されている感覚を持たないようにと、患者だけの空間を設けるなど、患者本位のアメニティ向上に配慮している。この空間に職員はおらず、患者のいこいの場となっているというが、マメに巡回することで問題は生じていないようだ。さらに、同院を語るうえでかかせないのが有限会社風工房の存在だ。これは、患者のリハビリや社会復帰に向けた治療の一環として、皮製品づくりと販売を行うことを目的に、なんと、職員と患者がお金を出し合い、会社を設立したというもの。同社の社屋は二階建てのお洒落なログハウス。屋根裏部屋が倉庫として活用され二階が製作工場、一階が販売のための店舗となっており、社長も含めて、その運営はすべて患者が行っている。 そこで販売されている製品は手作りの皮細工、キーホルダー、バッグ、財布等があり、デザイン、縫製、着色、そして販売などすべての行程が患者によって管理されている。一般的に、精神科における授産施設では、大企業が安い賃金で委託しているケースが散見されるが、同院では、患者が主体的かつ積極的に自律した事業を営んでいる。もちろん、職員もこの工房にボランティアとして参加しており、販売する商品の価格などを患者と協議して決定しているとのこと。このような、患者の尊厳を重視した方針は病院全体に徹底されており、各患者の症状に応じた小グループ編成で料理や工芸、機織、菜園など多岐にわたったリハビリが展開されている。この小グループ編成は婦長をはじめ、職員たちのアイデアをダイレクトに反映させる効果もあるようで、目ざましい成果を上げている。患者不在の医療が横行する中、患者を主体とする同院の理念こそが、いまの医療機関にもっとも求められていることと言えるのではないだろうか。

( この記事は2002年9月号「フェイズ・スリー」に掲載されました。)