患者主体のパン工房が地域浸透に効果を上げる【精神病院経営探訪】その⑦


財団法人長岡記念財団長岡ヘルスケアセンター (京都府長岡京市)

■"ミッション"でめざす医療を共有経営参画効果も

 長岡ヘルスケアセンターが居を構える長岡京市は、京都府の西に位置し、古くはわが国の都として栄えた地域である。阪急京都線の長岡京都線の長岡京駅から車で10分に位置する同院は、田園に囲まれ恵まれた環境にある。長岡記念財団は初代理事長・中野種一郎が1935年に行政からの依頼を受け、私財を投じて設立。地域の精神科治療を担う伏見病院分院(80床、現 長岡病院)を開設した。これを2001年4月に先代理事長・中野康男氏から現理事長である中野種樹氏が引き継ぎ、今日に至っている。同院は理念(ミッション)の中核として、「人々がその人らしく安心して暮らせるように支援の輪を広げてゆく」というテーマを掲げ、全職員が四つの中核的価値観を共有し、心を病む人々とその家族、関係者および地域の人々に対し、安心と満足を提供するメンタルヘルスケア専門病院を中心として、予防から治療、リハビリテーションまで一環したサービスを提供してきた。現在は地域の核として長岡病院から長岡ヘルスケアセンターに名称変更を行うべく認可手続きを行っている最中だ。また本部事務局、医局、薬剤、看護、病棟、リハビリ、デイケア、ナイトケア、介護老人保健施設の各部門、訪問看護などそれぞれの施設や部署ごとにミッションを設けることで、結果、職員個々が”何をなすべきか”といった具体策を考え、経営参画意識が生まれたという。同院は95年、経営の再構築と将来の発展を期して、さまざまな政策を強力に実施すべく「長期計画委員会」を設置。メンバーが作成した構想によって、各施設の機能分化を下図のように明確化するとともに、思い切った設備投資により病院本体を四期に分けて増改築することを決定。現在もなお工事が継続中である。それにより、総病床数を499床から454床に減床させるとともに、病床機能を急性期病床(53床)、亜急性期病床(192床)、療養病床(156床)、痴呆療養病床(53床)、亜急性期病床(192床)、療養病床(156床)、痴呆療養病床(53床)と再編。ストレスマネジメント、リハビリテーション、デイケア、ナイトケアにも充実したスペースと設備を確保している。現在の外来患者数は一日平均100人程度だが、近年徐々に増え続けており、同院ではさらなる増患を狙っている。顧客満足については、前述の施設面の改善を行い、職員に対しても技術やホスピタリティの向上に絶えず力を注いでいる。そのほか、給食はアウトソーシングせず手づくりで行うというきめ細かな配慮がなされ、ほかにないメニューと味を誇っている。仲野氏の「顧客満足を向上させるためには、従業員満足を向上させることが不可欠」という目先にとらわれない考え方で、職員の福利厚生面において手厚く配慮されてきた。今日、病院経営環境が厳しくなる中、労働組合からも経営改善・向上に対する提案がなされるなど、職員が一丸となって荒波を乗り越える磐石な連携が行われれている。同法人は、①自立生活に必要な知識や生活技術の習得に向け基礎的な生活訓練を行う「援護寮」、②生活技術(掃除、選択、服薬など)を身につけてもらい対人関係を結び、病気とのつき合い方を学ぶことなどを目的とした「デイケア・ナイトケア」-など、患者が社会復帰する際、多面的にフォローできる施設・体制を有している。なかでも同院がもっとも注力しているのが、精神障害者授産施設「カメリア」だ。患者が中心となってパンの製造と卸、さらには販売まで行っているカメリア。いまではリピーターすら存在する盛況ぶりとのことだが、ここに至るまでには試行錯誤が繰り返されたという。まず、見よう見まねで職員がパンづくりを実践するも、販売するようなレベルのパンはできなかった。パンづくりの難しさを実感した理事長は京都市内有数のホテル製菓、製パンのシェフを招へい。結果、カメリアで製造するパンは大変美味なものとなり、販売できるレベルに至ったという。これによりカメリアは、患者の社会復帰や地域に溶け込むきっかけとして大きな役割を果たしている。このように、古い体質にこだわらずに施設面や経営的な改善・改造を柔軟に行い、患者に対しても「何が必要なのか」ということを常に問い続け、答えを出している同院の取り組みは、医業経営受難の昨今においても揺ぎないポジションを築いていくと確信した。

(この記事は2002年11月号のフェイズ・スリーに掲載されました)