真に社会復帰に結びつく「新しい精神医療」をめざして【精神病院経営探訪】その⑧
医療法人志誠会 平和病院 (沖縄県具志川市)
■国の政策に合致し短期間で急成長を遂げる
平和病院は、87年に開設された単科の精神科病院で、後に医療法人志誠会として法人化された(病床数212床)。同院は開設以来現在までの15年間に、病院を中心にデイ・ケア、精神科訪問看護、通院リハビリ事業、ナイト・ケア、作業療法、精神科療養病棟I、デイ・ナイトケア、精神科療養病棟I と医療提供体制を拡大し続けてきている。また、入所授産施設「キャンプ・グリーンヒル」や生活訓練施設「桜邸」、福祉ホーム「小桜邸」、グループホーム「一葉邸・二葉邸」等の社会復帰関連施設も積極的に展開している。同院が短期間にここまで躍進した背景について同院院長の小渡敬氏は、「開院した時期が良かった。基本的には、わが国の医療はその制度の中でしか動けません。88年から「精神衛生法」が改正され、新しい「精神保健法」ができたことが追い風になったと言えるでしょう。」と語る。小渡院長が精神科病院を開業したのは、「学生時代の臨床実習で精神科医局の雰囲気が良かったため」だという。 また、今後の精神科医療については、「精神科病院は暗いとか臭い、汚い、怖いなどといわれ、病院らしい活気がありませんでした。それを直すことが新しい医療につながる・・・・。従来の医療のあり方を変えれば新しい医療が見えてくるものです。治療施設としての精神科病院をつくっていくことが重要でしょう」と語る。
■ 住民の施設開設反対が地域活動の原点に
順風満帆で発展してきたかに見える同院だが、96年のグループホーム開設時には、地域住民から大反発を受けた。しかし、地域におけるニーズは確実に存在したことから、開設を諦めることはしなかったと小渡院長は語る。地域住民との方とは、三年もの間、折衝を続けてきました。こうした地道な話し合いを続ける中で「病院がオープンな雰囲気をもっていない」「活動を地域に伝達してほしい」といった要望が地域から出てきました。これを機に、年に4回発行している機関紙「しせいかい」を、職員全員で地域に配布するに至ったのです。現在も、1200軒の地域家庭に手分けして配布しています。」また、社会復帰の促進と福祉の向上を図ることを目的に病院家族会を結成。委員会や学習会の開催、病院行事への参加なども活発に行っている。このほか、病院の夏祭りや病院祭など、大きなイベントは地域に開放。夏祭りには2000~3000名の人が集まるという。
■ 真に社会復帰に結びつく施設づくりと運営
「精神疾患の患者が社会に復帰できたことが証明されるのは、仕事をして給料をもらい税金を納めることなのではないでしょうか。もちろん、あくまでも理想論ですが、それを真の社会復帰だと考えているのです。」(小渡院長)こうした院長の理念を実現すべく、同院では入所授産施設「キャンプ・グリーンヒル」を開設し、主に製パン訓練や農耕、陶芸などの就労訓練を通し、社会参加を促進している。同施設は、県から「資金援助をするので福祉工場にしてほしい」という打診があったものの、福祉工場への転換は行われなかったという。最大の理由は、患者の就労訓練という実状に合わないため。「福祉工場の場合、八時間労働できる人を20人集めなければいけません。しかし、八時間働けないから病気なんです。二時間働ける人とか半日働ける人がいる。社会復帰に向けた訓練ですから、そういう人から始めないといけないのに、認められない。だから多くの人のために福祉工場にはしませんでした」と小渡院長は語る。同院における今後の目標について、小渡院長は次のように明言する。「特に慢性期の統合失調症の人達に対して、従来できなかったリハビリや治療効果を上げるための努力をしていきたいと思います。グループ全体での検討課題といえます」