これからの精神医療を探る 【精神病院経営探訪】その② 

医療法人松和会門司松ヶ江病院
 医療法人松和会門司松ヶ江病院(山浦敏宏理事長院長200床)は1961年、山浦賢治前理事長(現名誉院長 )が福岡県門司市(現北九州市門司区、人口15万人 )に同市初の精神科病院(80床)として開設した。同市は時のライシャワー 米国大使死傷事件が発生した年で、精神科病院に対する風当たりが強く、地域からも敬遠され気味であったが、山浦前理事長は開設当初から 「境界フェンス」を設置せず、完全開放法(強制せずに精神病者に薬を飲んでもらうこと)をとり続けた。現在は精神障害の急性期から慢性期、さらには老人痴呆 まで患者の特性に応じた治療・療養環境を整えている。

■早期社会復帰を目指しチーム一丸境界フェンス取り払い、完全開放療法

 同院の治療の理念は「精神障害という理解されがたい病気で悩んでいる人達との心の触れ合いを通じてその純粋な心、ひたむきな努力を受け止め、自由と尊厳と生産性の回復に全職員をあげて精一杯の援助をし、病院の門を社会に大きく開いて奉仕いたします。」である。これはヒポクラテスの「医師は専門的な知識をもつだけではなく、病人一人ひとりの環境と、また、その病気によって負わされた社会的な重荷についても静かに心をめぐらし、深い関心を持たねばならない。」という哲学に、山浦前理事長が感銘を受けたことから掲げたものだ。

■QOLの向上目指し、施設のハイブリッド化を進める

 同院では、今から7年前に子息である山浦理事長が同院に着任したのを契機に、「障害者のクオリティ・オブ・ライフ の向上」を目指して、ハードとソフトの両面から施設のハイブリッド化を進めた。その結果、障害者が適材適所で治療を受け、療養できる環境が完成した。

【近年の門司松ヶ江病院の歩み】

1992
精神科デイケア施設、ショートステイ、在宅介護支援センターの開設
1995
老人性痴呆疾患治療病棟(40床)
精神科療養病棟A (60床)
老人保健施設「フレンドリー松ヶ江」(52床)開設
精神障害者福祉ホーム「カーサ松ヶ江」(入居定員10名)開設
体育館  デイケアを含む社会復帰複合施設
(有)医療管理センター
1997 院内託児所
1998 精神科急性期治療病棟44床改築
精神科一般治療棟56床改築
精神障害者グループホーム「まつぼっくり」(定員8名)開設

 同今後はソフト面をさらに充実させるために、治療の理念を原点に置きながら、山浦理事長の想いでもあり、病院のロマンでもある「全ての精神障害者とその家族が治療の必要性を理解し、個々の能力を最大に発揮できる場所で、笑顔で生活できるようにしたい」に向かって、全職員が一丸となって歩んでいく方針だ。そこでキーワードとなるのが「社会復帰」「家庭復帰」だが、その理想を追求する姿勢は、病院が中間施設を支え、病院と中間施設が社会を支えている構図を示したロゴマークに現れている。病院と中間施設の特徴とて、第一に精神障害者のノーマライゼーションの実現に向け、チームで対応していることが挙げられる。すなわちゴールを定めたケアプランを立て、医師、看護婦、作業療法士、栄養士、精神保健福祉士、介護福祉士など様々な職種が連携して患者の治療と生活に関わっている。第二には、家族の協力を重視し、精神障害、急性期、痴呆患者などの家族会やミーティングを通して障害を理解してもらい、積極的に治療に参加させている。 

■アルコール依存症治療に40年の歴史

 また、同院はアルコール依存症の治療においては40年の歴史がある。個人的カウンセリングや薬物療法と併用して、共通の体験者が必死で支え合う「断酒方式」による集団療法で大いに効果をあげてきた。そして今年中にはアルコール症の早期治療を目指して、門司駅前にサテライトクリニックを開設し、山浦前理事長のロマンとして、また、自らのライフワークとして取り組むべく計画が進行中である。以上のような確固たるノウハウは「我々が患者や家族にこうあってほしいと願うことが、患者や家族がこうなりたいと思うことになること、こうなって良かったと思うことであること、それが我々の目標である。」「我々の進むべき方向は患者、そして家族が教えてくれる」という信念が基本にある。

■地域との交流に尽力

 同院は20年以上にわたって、患者の自立、労働による社会参加を願ってリハビリに力を入れてきた。具体的には昼間開放と男女混成病棟、早期の単独外出泊許可、いわゆる職親制度から精神障害者の雇用、家族会、、断酒会の結成、退院患者クラブの結成などにより、大きな成果をあげている。こうしたプログラムは診療報酬の対象にはならない奉仕活動であるが、社会復帰を1日でも早めたいという法人の信念のもと、職員が一体となって踏ん張っている。また、社会的偏見を解消し、地域との垣根を取り払うために、患者や家族、時には地域の人も参加して運動会や盆踊り大会を開催するほか、大きな特徴として95年に完成した体育館と集会室を地域に開放して、住民の新年会や研修会、敬老会などに利用してもらって、好評を博している。

(この記事は2002年2月号の「医療タイムス」に掲載されました。)